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消えない思い

第21話 覚悟

「じゃ、俺は部っ活~、またな!」青木君はそう言って颯爽とカバンを持ち、手をヒラヒラと
振って教室を出ていった。
「何時も青木君は元気だな~、なんか癒される…」そう思いながら、「よし!くよくよしてて
も始まらない!僕は高校生活は思いっきりエンジョイするって決めたんだから」そう自分に言
い聞かせて入部届を片手に、美術部の部室目掛けて歩き出した。
自分の気持ちを自覚し、先輩の気持に気付いた今、先輩に会うことは少しためらいと緊張だっ
た。

渡り廊下を渡っている時、青木君が部活着に着替え、体育館へと歩いて行く姿が見えた。
他の部員とじゃれながら楽しそうにしている。
暫く立ち止まり、青木君のそんな姿を微笑みながら眺めていると、彼は僕に気付いて、大手を
振ってくれた。
何か大声で言っているようだったが、何を言ってるのかまでは聞き取れなかった。
それで僕が手を振り返し、聞こえないよ~と大手を振って耳に手を当て、バッテンを頭の上で
作ったら、青木君は
投げキッスをして、紳士的なお辞儀をして、また投げキッスを返してくれた。
部活の友達は彼をからかった様に、頭を叩いたり、背中を押したり、足蹴りをしたりして、凄
く仲良さそうだ。
照れながら頭を掻いて体育館に急ぐ青木君たちを見て僕は、和やかだな凄く良い!と思いなが
ら、少しほぐされた緊張以上に気を引き締めて、更に美術部部室へと進んでいった。

部室の前に立ち、唾をごくりと飲み込んで、深呼吸し、少しそこに佇んでいた。
部室の戸を叩くのは凄くためらわれたが、覚悟を決めて、正に今、ノックしようとした時、
「あ、要く~ん、学校に来れるようになったんだね。」と後ろから先輩の声がしてドキッとし
た。
後ろを振り向くと、部室のカギを指でクルクルとまわしながら、向こうからやってくる先輩が
いた。
そして、「快気祝いのハグ!」と言って僕にハグし、「ハハハ、君のお父さんのまね~」と言っ
て笑った。
そこで、更に緊張がほぐれて、たまにはお父さんの奇行も役に立つなと思いながら、
「ハハ、お父さんハグ好きだから」と言った後、「先輩、先週はお見舞いありがとうございま
した。お陰様で、宿題もちゃんと提出できたし、今日は入部届だけ出して帰ろうと思って。」
と言うと、
「せっかくだから、寄って行ってよ。新しいお菓子があるんだよ~」の先輩の誘いに僕はクスっ
と笑って、
「じゃあ、少しだけ」と言って部室に入って行った。
先輩は以前来た時と同じように戸棚を開けて、「これは新発売のおかしでね~」と言いながら、
すら~っと並んだお菓子とお茶を見せてくれた。
「要君、この新発売、試してみる? 実はね、君が戻って来た時の為に僕も食べないで残して
おいたんだ。一緒に食べようと思ってね。」と言ってウィンクした。
先輩の行為は凄く僕の心をモヤモヤとさせた。

なぜ先輩は僕にそんなに良くしてくれるんだろう?
僕がお母さんの息子だから?
僕の事も少しは好きだと思ってくれてる?
それとも、皆にこうなんだろうか?
いっそ告白して振られた方がすっきりするかな?

等と思いながら、「じゃ、今日はその新発売お菓子でお茶しましょう。」と先輩に告げた。
「じゃ、今日はお茶は何にする?」と聞く先輩に
「そうですねぇ~ う~ん」と考えた後に、「今日は先輩に任せます!」そう言うと、先輩は
少し考えて、
「じゃ、今日は気分を変えて、ジュースにしよう!」と言ったので、
「え?ジュースも部室にあるんですか?」と尋ねると、
「いや、購買の自販機さ。素早く行って来るから、要君、何が良い?」と先輩が聞いたので、
「あ、じゃあ、僕も行きます。見て選びたいので!」と言って、先輩の後について、部室を出
た。

「あれから調子はどうだい?」と先輩が聞いてきたので、
「今では副作用も切れて、すっかり元通りです。」と答えると、先輩は、スンっと僕の顔に近
ずいて匂いを嗅いだ。
僕はドキリとして一歩引いた。
「ほんとだ、もうすっかりいいみたいだね。匂いも残ってないし、でもそれでも要君っていい
匂いだね。シャンプーかな?それともボディーソープ?」と先輩が嬉しそうに話す。
ドギマギしながら、「先週は本当にお世話になりました。一人でも僕の事を知ってくれてる人
が居るって、凄く心強いですね。僕一人だったら、今日学校に来ることは凄く怖かったと思い
ます。先輩の存在は凄く助かりました!」と僕が言うと、先輩は束さず、
「でしょ?だから言ったじゃない。一緒に頑張ろうって。僕はαとして要君の事を守るって。」
と返してくれた。
僕はそこで両手のこぶしをギュッと握って、少し答えを聞くのが怖かったが、
「何故、先輩はそこまでして僕の事を気にかけてくれるんですか?」と思い切って聞いてみた。
先輩は、意外だというような顔をして目をまん丸くした後、微笑みながら、「そんなの決まっ
てるじゃないか!要君は僕にとって大切な弟みたいな存在だからだよ!」
という答えに僕は、「ハハ…弟ですか…そうか…そうですよね。」と呟いてうつ向いた。
先輩は「ん?なんか言った?」と聞こえていなかったみたいだ。
僕は、「いえ、何にも」と言って、下を向いてトボトボと付いて行ってると、
「どうしたの?ぼんやりして…気分悪くなった?家まで送ろうか?」と聞いて来る。
僕はにっこりとほほ笑んで、「大丈夫です!でも、先輩って意外と鈍感ですね!」と開き直っ
た。
そんな先輩は「え?鈍感?僕が?何故急に?」と戸惑った顔をしている。
そんな先輩に僕は思いっきり微笑んで、
「僕、一人っ子でずっと先輩みたいなお兄ちゃん、欲しいって思ってたから、精いっ~杯甘え
ちゃおう!と思ってたんです!」そう言って、先輩の腕に僕の腕を回して抱きついた。
先輩は、「要は甘えっ子だな~」と言ってわらっていたけど、僕は弟でも良いから、この特権
を利用して頑張ってみよう、などと邪な思いを抱いていた。




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